やんごとなき文房具

何かの拍子にふと文房具が目についた。

日常を支え思惑を形にしてくれる文房具。奴らはどうも単なる消耗品や事務用品ではなさそうです。そのシンプルな形と思わせぶりな手触り、カチリと響く操作音一つ一つに数十年あるいは数百年かけて磨き上げられてきた機能が宿っているようです。

使う人の知恵と素材への深い理解が蓄積されなければ今日の文房具はなかったはずです。今回はいくつかのアイテムを取り上げてみます。

目次

  • 紙を切るという行為:ハサミとペーパーナイフ
  • 固定と修正:ホッチキスと修正テープ
  • 書くということ:ペンとペン立て
  • 文房具の主張

紙を切るという行為:ハサミとペーパーナイフ

ハサミ。二枚の刃が交差するただそれだけの構造。しかしこの構造に至るまでには多くの試行錯誤があったはずです。

ハサミの原型は古代エジプト時代にまで遡るそうですが現代私たちが使う、指輪を通して親指と人差し指で操作する支点式ハサミの形は実に合理的で完成されています。

刃先のわずかな角度・素材の硬度・そして支点となるネジの位置。これらの要素が絶妙なバランスで組み合わされることで紙や布を「ねじる」ことなく滑らかに断つことができます。

一方ペーパーナイフはハサミとは対照的です。刃というよりは薄く研ぎ澄まされた「峰」のようなフォルム。

紙の繊維を断つというチカラ技ではなく封筒の継ぎ目という「弱点」を鋭く見つけ出し裂くように開く、なめらかなエッセンスが詰まった文房具です。

細長くわずかに湾曲したその姿は余計な力を必要とせず手首のスナップ一つで完了です。

固定と修正:ホッチキスと修正テープ

ホッチキスのファンキーさはその名前だけじゃなくその動作の潔さにあります。紙という柔らかい素材を針という小さな金属片で「確実」かつ「永続的」にどうにかしてやろうという意思を感じます。

バネの力を利用し一瞬の動作で針を貫通させ裏側でキレイに折り曲げる機構はまるで工学的なミニチュアの芸術作品です。
商品化までの紆余曲折を想像するに難くありません。

中でも分厚い束を綴じられるホッチキスの内部構造には力の伝達効率を高めるためのカム機構やテコの原理が複雑に組み込まれているそうです。

外見もそうですが内部の金属パーツの配置にもホッチキスという道具の本質的な美を形作っているなんてなんとも粋ですね。

対して修正テープは「なかったことにする」ための道具です。インクや鉛筆で書かれた確かな痕跡を物理的に覆い隠す後ろめたさすら消してくれます。

テープが常にピンと張り紙面に均一に乗りそして途中でヨレたりしない機構は緻密なギアとテンションの調整によって成り立っています。

修正後の表面が文字を再筆記するのに適した滑らかさと紙の白さに近い色合いを持っていること。この控えめながら完璧な仕上がりが「頼んだぞ」という気持ちになれます。

書くということ:ペンとペン立て

ペン、すなわち筆記具は文房具の代表格です。万年筆であれボールペンであれシャープペンシルであれ、その機能はいかにストレスなく使用者の意図を紙に伝えるかという一点に集約されます。

作家の故・畑正憲さんはお気に入りの万年筆に出会うため家が一軒建つかもしれないほど万年筆を買い求めたそうです。

ボールペンのグリップ部分は書くときの指の圧力と軸の重さが均等に分散され、長時間筆記しても疲れないように設計されています。

まさに人間工学ですね。

そしてペン立て(ペンスタンド)。これは「ペンの待機場所」という重要な役割を持っています。机の上でペンが転がったり失われたりしないようにする機能。

この存在は一度気にしだしたらけっこう気になります。底の安定性・取り出しやすさ、そして中に収めたペンを「美しく見せたい」という空間的な調和まで気になってきます。

文房具の主張

今回取り上げた文房具はどれもその形状がそのまま「使い方」を教えてくれます。

  • ハサミの指穴が持つべき指を限定し力の入れ方を誘導する。
  • ホッチキスのレバーが力を加えるべき方向性を示している。
  • ペンの重心が最も自然な筆記姿勢を取らせる。

上記は言葉を持たない文房具が設計者の意図を使い手に伝える「主張」です。文房具は複雑なマニュアルを必要としません。

手に取った瞬間にその道具が何のためにあり、どのように使われるべきかが直感的に理解できる。この即座の理解操作のスムーズさこそが文房具です。

ではまた。

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